東大先端研の児玉龍彦・名誉教授(以下、児玉教授)が、「誰でもいつでも何度でも」のPCR検査を実現すべく世田谷区内で実証実験を行い、その報告書が公開された(1)(2)。しかし、問題がある。まず、この実験は東大先端研の児玉教授が勝手に行っているもので、区は一切関与していない。世田谷区が児玉教授に頼んだわけではないし、当然、区が費用を負担しているわけでもない。多くの方々が誤解しているので、ここは明確にしておく。この2つの報告書で児玉教授は「世田谷区有識者会議議員」と「世田谷区コロナ対策有識者会議議員」の肩書を使っているが、世田谷区にこうした「有識者会議」は存在しない。よって、その「議員」もいない。しかし、なぜか児玉教授は自称している。
「有識者会議議員」を名乗って報告書を一般に公開しているのだから、多くの区民は、「この実験は世田谷区が実施している」と思うだろう。実際、保坂区長もこうリツイートしているのだから、なおさらである。
世田谷区では「PCR検査」が可能な1日の検査可能数を300台から600台を倍増し、集団感染が起きると影響が大きい介護・高齢者施設や医療、保育等の現場の「社会的検査」を準備している。大量に検査できる検体採取、計測機器やスタッフの配置等の検討を続けている。東大先端研の実証試験も続いている。
— 保坂展人 (@hosakanobuto) August 17, 2020
児玉教授が意図的に名乗っているのか、区長が名乗らせているのかは不明だが、いずれにしても不正確である。保坂区長のメディア喧伝と相まって、区主導で「誰でもいつでも何度でも」のPCR検査実現へ向けて、事が進んでいると勘違いさせる。あくまで区長の頭の中だけで進んでいる事柄である。慶応大学の金子勝・名誉教授も以下のようにツイート。
【世田谷モデルは2つのターゲット】世田谷区有識者会議の東大議員の実証試験は、PCR検査の目的を「エッセンシャルワーカーの事業所型」と、新宿からの乗降客が多く飲食店・劇場が多い「繁華街の地域型」と明確。成果と問題点の実証結果が速報されている。https://t.co/3fpljGqu9V
— 金子勝 (@masaru_kaneko) August 17, 2020
児玉教授にせよ、金子教授にせよ、学者のくせに事実に忠実でないところが共通している。もちろん、確信犯的やっている可能性もあるが。
区のコロナ対策本部が有識者を招いてヒアリングした時の議事録が、昨日、区のHPで公開された。誤解しないよう念を押すが、これは「有識者会議」ではない。7月27日に区のコロナ対策本部が、専門家と意見交換するために設けた会合である。現在(8月19日)までのところ、この会合以降、1回もこの手の集まりは開催されていない。ここには児玉教授のほか、世田谷区医師会、玉川医師会の両会長、大学の研究者も出席されているが、まさかこの会合が「有識者会議」で、自分がその「議員」だと勘違いする人はいないだろう。
保坂区長は児玉教授の提言を採用し、「誰でもいつでも何度でも」のPCR拡大路線を突き進んでいる。しかし、何度も言うが、財源はじめ、陽性者の収容先をどうするのか等々、肝心かなめの話は何一つ明らかになっていない。こうやって、“お仲間”たちだけで雰囲気を醸成し、目立つことで何を得たいのか知らないが、区民を振り回すこの有様は大変罪深い。