コロナ禍にまつわる緊急経済対策として、安倍総理は所得制限なしの国民1人当たり10万円の給付を決めた。これまで、所得減世帯に限って30万円(対象は約1300万世帯)、あるいは、所得制限を設けて1人10万円などで調整しているといわれていたが、「連立離脱もあり得る」と強硬に迫った公明党が押し切った。しかも、一度了承した補正予算案を組み替えるというのだから、異例中の異例である。
そもそも、経済対策そのものにスピード感が伴っていないばかりか、全世帯布マスク2枚配布やら、星野源さんの楽曲付きで自宅でくつろぐ自分をツイートしてみたりと、総理は国民の思いとは大分かけ離れたことをやってしまっていた。創価学会に突き上げられた公明が、ここで突破してこなかったら、政権としての評判は地に堕ちていたはずだ。全体としては公明に救われたと言えるかもしれない。
しかしながら、自民党内で積み上げてきたはずの議論、決定が一気に吹っ飛んだということでもあり、自民の合意形成能力に疑問符が付いたことも事実だ。党内でも所得制限なしの一律10万円給付の声が上がっていたにも関わらず、どうにかこうにか“鎮圧”したところに、どんでん返しが起ってしまった。
問題は自民党の「国民の声を聴く力」が相当鈍っているのではないか、ということである。「官邸主導型政治」が最も顕著だったのは小泉政権だが、その中枢にいた安倍総理が、当時の手法を踏襲していることは明らかで、トップダウン型が威力を発揮するのは今回のような緊急時のはずだが、それが裏目に出ているようだ。となると、安倍総理の資質が問われる。それに、各所から広く意見を吸い上げ、政策に反映させてきたはずのこの党の活力が、かなり衰弱してしまっているともいえる。
昨日、緊急事態宣言は全国に拡大された。しかし、その効果のほどはよくわからない。所詮、自粛要請に留まる現状では、生活の行動については個々人の判断に委ねられているからだ。ほんとうは補償を明確にした上で、まず全国に自粛を命令することが筋であり、それができる立法をしておくべきだった。感染の後を追いかけるように対象範囲を広げたところで、このままずるずると長引く恐れはかなりある。本来は官邸主導でリーダーシップを発揮しなければならない政策分野こそが、雰囲気に支配されているようで、国民として不安は募る一方だ。
制限なしの10万円一律給付については、維新も強く主張してきたが、今回は「小さな声を聴く力」の公明党に軍配が上がった。