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“世田谷モデル”ーーその後に待ち構えるもの

世田谷区議会は昨日(13日)、7日間にわたる決算特別委員会を終えた。最終日の補充質疑では、わが会派(無所属・世田谷行革110番・維新)から大庭正明議員が質問し、今月10月からスタートするまでの、“世田谷モデル”騒動の検証作業を行った。

そもそもの発端は、7月28日に放映されたBS-TBSの「報道1930」。ここで保坂区長は「誰でもいつでも何度でも」の“世田谷モデル”をぶち上げた(ちなみに、区長は昨日の答弁で、東大先端研の児玉龍彦名誉教授が勝手に言っていた、という感じで言い逃れしていたが)。これ以降、数多くのメディアに出演し、一躍「時の人」となった。
この区長の暴走が役所に異常な負荷をかけ、議会や区民を混乱に陥れた元凶であるということは、各会派の共通した認識である。財源を明らかにしないまま、議案提出までに内容が二転三転し、挙句の果てには異例の臨時委員会まで開かせた。すったもんだするうちに、厚労省から発せられた文書の解釈によっては、国からの補助を当てにできるという一点に無理やり光を見出し、これを根拠にわが会派以外のすべての議員の賛成を取り付け、可決させてしまった。言っておくが、国庫からのお金だろうが何だろうが、血税であることに何ら変わりはない。

保坂区長のパフォーマンスに4億円が投じられたわけだが、大庭議員が取り上げた区長の著書『88万人のコミュニティデザイン』にはこうある。「私はできもしないことを大言壮語するタイプではありません。力もないのにアドバルーンを勢いよくあげて、一瞬の世間の耳目を集めるような振る舞いは、根っから嫌いです。政治は結果がすべてです」。何をかいわんや、である。

さて、かくて“世田谷モデル”は当初の予定からずれ込んで、今月からようやく始まった。


区長の報告にあるように、介護事業所を対象に10日間で268人にPCR検査を実施し、2か所で2人の陽性者が出たという。偽陽性の可能性も否定できないだろうが、検査を行えば、無症状であってもやはり陽性者は出る。私はアドバルーンが勢いよく上がっている8月24日の時点で「『魔女狩り検査』に血税4億円は認めない」と題して、いくつかの問題点を指摘しているが、さっそく、希望している介護事業所からは躊躇する声が出始めているという。それは当然である。今回はたまたま濃厚接触者がいなかったという幸運に恵まれたが、これから検査が進むにつれて、濃厚接触者も出るだろう。そうすれば、事業継続も覚束なくなるわけで、経営者がためらうのも無理はない。それに、多くの専門家が指摘している通り、短期間に何回も検査をしないと感染防止の意味はない。

しかも、そうなったら、また保健所も忙しくなることは必至で、区長が言っていた「保健所に負荷をかけないために実施する」という言い訳も成立しなくなる。さらに、インフルエンザが流行した場合はどうなるのだろうか。HIV検査など本来業務も滞っている。区長の得意技である「見切り発車」は、様々な不安を抱えてはいるものの、今のところ一応は走り出した。しかし、いつ脱線するかはわからない。もっと言えば、対象のエッセンシャルワーカー26000人のうち、多くの人が検査に二の足を踏みだしたら、そもそもの運行計画は幻と化す。

今回の決算委員会では、ある議員が黒澤明監督の「まあだだよ」を例に引いて質問していたが、これに倣って言えば、“世田谷モデル”が“阿呆列車”にならないとも限らない。内田百閒の『阿呆列車』は味わい深く面白いが、“世田谷モデル”は面白くも何ともない。たしか阿呆列車は第3号くらいまで走らせたと思うが、“世田谷モデル”はそんなに走る見通しは立っていない。

だから、慶大の金子勝名誉教授の言うことは著しく不正確である。百閒にはヒマラヤ山系がいるが、保坂区長には彼のような殊勝な人間はいない。金子氏みたいな人だけなのか。これが問題の本質なのかもしれない。