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山本一力さんの「道義心」に想う

緊急事態宣言が出されてから初めての週末。銀座、渋谷、新宿など主たる繁華街、歓楽街からはすっかり人気が失せたようだ。宣言のタイミングは遅すぎた感が否めないが、やはり常識的な多くの日本人は、なるべく都心には行かないと決めたわけだ。

先日の産経新聞(4月6日付)に作家の山本一力さんのインタビュー記事が掲載されていて、心から納得した。山本さんは「法律や政治に縛られたり、護られたりしようがしまいが、日本人の根っこにある道義心、それを信じてやっていけばいい」とおっしゃる。道義心――。私自身しばらく忘れていた言葉だが、責任感やら倫理観やらというような使い古された、そのくせ実は皆よくわかっていないようなそれとは違って、腑に落ちるものだった。

山本さんは若いころ、「道義は法律より上にある」と会社の先輩に叩き込まれたという。法律は人が後付けで作ったもので、ゆえに抜け穴もある。しかし、道義のほうはもともと日本人の中に備わっているから抜けることがない、と。例として、江戸時代の商人は災害時には値引きして、物品が多くの人に行き渡るようにしたことや、東日本大震災のときに牛丼屋を訪れた母子3人が、家族全員分を買うとほかの人に回らないと思い、お母さんが1つ注文して「お父さんの分だけにしよう」と子に言い聞かせた話を引いている。

こういった振る舞いができる心は、スーパーでトイレットペーパーの買い占めに狂奔している姿や、緊急事態宣言が発せられた翌日には食品が悉く無くなった風景を目の当たりにしても、まだまだ残っていると思いたい。いや、正確には眠っている道義心を呼び覚ますべきだと思う。とは言うものの、戦後長らく損得勘定を人生の羅針盤としてきた大多数の日本人には難しいかもしれない。しかし、今回のコロナ禍をひとつの「天譴」ととらえてみれば、自分を生きなおす転機にできるかもしれない、と考えたりもする。

山本さんは言う。「自分に誇りを覚える生き方を選んでいけば、心は元気になれるんじゃないか。自分の根っこにある道義心を、今こそ信じて」。